入管法改正法案の問題点―ノン・ルフールマン原則の例外規定の創設

ノン・ルフールマン原則(難民に対する強制送還停止効)に関する難民条約第33条は次のように定めている。

第33条【追放及び送還の禁止】
1 締約国は、難民を、いかなる方法によっても、人種、宗教、国籍もしくは特定の社会的集団の構成員であることまたは政治的意見のためにその生命または自由が脅威にさらされるおそれのある領域の国境へ追放しまたは送還してはならない。
2 締約国にいる難民であって、当該締約国の安全にとって危険であると認めるに足りる相当な理由がある者または特に重大な犯罪について有罪の判決が確定し当該締約国の社会にとって危険な存在となった者は、1の規定による利益の享受を要求することができない。

これに対し、現在の入管法の規定は次のようになっている。

第61条の2の6第3項 第61条の2第1項の申請(注:難民認定申請)をした在留資格未取得外国人で、第61条の2の4第1項の許可(注:仮滞在許可)を受けていないもの又は当該許可に係る仮滞在期間が経過することとなつたもの(同条第5項第1号から第3号まで及び第5号に該当するものを除く。)について、第五章に規定する退去強制の手続を行う場合には、同条第5項第1号から第3号までに掲げるいずれかの事由に該当することとなるまでの間(注:難民認定手続が終了するまでの間)は、第52条第3項の規定による送還(同項ただし書の規定による引渡し及び第59条の規定による送還を含む。)を停止するものとする。

ちょっとわかりにくい規定であるが、要するに難民認定申請中の者に対して幅広く送還停止効が生じる。すなわち、現在の入管法は難民条約よりも送還停止効の対象が広い。しかし、現在国会に提出されている改正法案では次の例外規定が創設される。

第61条の2の9第4項 前項の規定(注:改正前第61条の2の6第3項と同様の規定)は、同項の在留資格未取得外国人が次の各号のいずれかに該当するときは、適用しない。
一 第61条の2第1項又は第2項の申請前に当該在留資格未取得外国人が本邦にある間に二度にわたりこれらの申請を行い、いずれの申請についても第61条の2の4第5項第1号又は第2号のいずれかに該当することとなつたことがある者(第61条の2第1項又は第2項の申請に際し、難民の認定又は補完的保護対象者の認定を行うべき相当の理由がある資料を提出した者を除く。)
二 無期若しくは三年以上の懲役若しくは禁錮に処せられた者(刑の全部の執行猶予の言渡しを受けた者又は刑の一部の執行猶予の言渡しを受けた者を除く。)又は第24条第3号の2、第3号の3若しくは第4号オからカまでのいずれかに該当する者若しくはこれらのいずれかに該当すると疑うに足りる相当の理由がある者

このノン・ルフールマン原則の例外のうち第2号は難民条約第33条2項に対応する。これに対し、第1号は3回目以降の申請者の送還停止効の排除を規定する。そのターゲットになるのは主にクルド難民である。諸外国で多くが難民認定を受けているトルコのクルド人は日本では難民認定を受けることができない。日本はこれまでトルコ出身者をひとりも難民認定していない。UNHCRの2018年データによると、カナダは1661件のトルコ出身者の難民認定申請を処理し1485人を難民と認定(認定率89.4%)、米国は674件の申請を処理し502人を難民と認定(認定率74.5%)、英国は934件を処理し472人を難民を認定(認定率50.50%)などであるところ、日本は1010件を処理して難民と認定した者はゼロである(平野雄吾著「ルポ 入管――絶望の外国人収容施設」(筑摩書房、2020年)、kindle2739-2755/3605)。

日本で多くのクルド人が難民認定申請するのは、日本への入国が容易だからである。日本とトルコの間には査免協定が結ばれ、トルコのパスポート保有者はビザなしで日本に入国できる。査免協定が締結されている理由は日本とトルコが友好国であるからであるが、同じ理由でクルド人は日本で難民認定を受けることができない。トルコはイラン・イラク戦争の際にバクダッドに取り残された日本国民を自国民よりも優先して救出したほどの親日国で(秋月達郎「海の翼 トルコ軍艦エルトゥールル号救難秘録」(KADOKAWA、2011年))、日本側もトルコに対して多くの外交的配慮を行なっている。そのひとつのあらわれがクルド人に対する難民不認定である。そのため、日本のクルド人には難民申請を繰り返して在留を続けている者が多い。強制送還停止効はクルド人たちのいわばセーフティネットとして機能している。世界中で難民認定されている彼らを1人も認定しない我が国において、強制送還停止効の例外規定を創設し、難民申請を繰り返す者の送還を開始すれば、真の難民を送還するという重大な人権侵害が生じる。外交的な友好関係と難民認定の判断は切り離すべきだ。

また、我が国の難民認定率は諸外国に比べて非常に低く、クルド人に限らず条約上の難民として認定されるべき者が正しく認定されていない。このような状況において、第1号のような送還停止効の例外を設けるべきではない。

Yasuyuki Nagai
Advogado japonês em Nagoya