第三連邦地域裁判所訪問

サンパウロの第三連邦地域裁判所(TRF3)を訪問してきた。控訴審判事(desembargador)に面会し、お話を伺った。ブラジルの裁判所は第二審までが事実審で、その後は法律審となっている。

第三連邦地域裁判所は第二審の連邦裁判所で、サンパウロ州とマットグロッソドスル州を管轄している。43名の控訴審判事がいて民事部、刑事部、公共財務部、社会福祉部に分かれている。今回面会した判事が所属する社会福祉部では主に年金受給者の年金支払に関する訴えを扱っている。事件は原則3名の裁判官による合議で処理され、報告担当官を務める判事が中心となって事件を検討し、修正担当官を務める判事がそれをチェックする。判事の意見が割れた場合には弁護士から部全体の投票を行うように申立てがなされて、そうなることが多いようだ。合議のあたりの話は非常に複雑な部分もあって十分に理解できなかった。合議の都合で他の部の事件の投票を行うことになることもあるようだ。

各判事には10数名のスタッフがいて、計算など定型的な事務の多い社会福祉部ではスタッフ全員が判決起案に関わっているようだ。そのため裁判官はスタッフの起案をチェックするだけでいい場合が多くなる。民事部や刑事部では非常に幅広い事件が来るため、裁判官自身が起案に手を入れなければならず負担が大きいようだ。今回話を伺った裁判官は5年前に控訴審判事に昇任した。その際の手持ち事件は1万5000件で、毎月約600件の新件が配転される。毎月配転数以上の判決を書いて、現在の手持ち事件は1万件になったそうだ。退官までには5000件くらいにしたいという話だった。ただ、残っている事件には重たいものが多くだんだんと事件を減らすのは難しくなってきているようだ。スタッフのうち2名は判事が外部から連れてくることができるようで、弁護士から任官した判事などには自分の事務所の職員を連れてきたり、下級審裁判官からの登用者は下級審裁判所の職員を連れてくるということもあるらしい。スタッフは法学部卒で、弁護士資格を持っている者もいるとのことだった。

訪問時に伺った話ではないが、デジタル化がされる前に別の連邦地域裁判所でスタッフをしていた方の話では判決の宣告はまとめて行うことがほとんどらしい。「1番目から17番目の事件の判決の理由はかくかくしかじか。ただし、5番目の件については……」といった感じで。確かに月に何百件も判決をしていたら、宣告も1件ずつやるのは無理だろう。

ルーラ元大統領の裁判ようにユーチューブで審理を公開するかどうかは、公共の利害に鑑みて裁判官の裁量で決めることができる。ただし、電話の録音記録などが含まれて通信の秘密にかかることがらや、プライバシーに関することなど、秘匿事項が含まれる場合は傍聴を含めて公開が許されない。刑事事件などでは電話の秘密録音や租税に関する事項が証拠になっていることがあり、該当部分の傍聴は禁止される。合議などはオフィシャルなものは公開されているものの、他の裁判官の裁判官室を訪問してアンオフィシャルな事実上の議論が非公開でなされることもある。訴訟手続の電子化によって、実際に会って合議を行わずシステム上の投票のみで完了する事件が増えているとのことだった。

新しい裁判官を任用する際には対象となる候補から裁判官全員の投票による各得票数が多い3名のリストを作って、その中から大統領が1名を指名する。上位の裁判所の裁判官の投票がからむため、年功だけでなく上位の裁判所の裁判官とのコネクションが任用順に影響することもあるようだ。裁判所の運営は半分は年功、半分は選挙によって選ばれた委員会が行なっているようだが、近年は国家司法審議会や会計検査院の干渉が強くなって、裁判所の自治が弱くなっているとのことだった。

控訴審判事のオフィスは広くて内装が美しく、コーヒーをサーブしてくれる職員がいて、公用車の利用ができるなど、地位の高さを感じた。定年は75歳で身分保障があるため、75歳までの好きな年齢まで勤務することができる。ただ退職しても条件を満たせば給与と同額の年金が保障されるため、必ずしも定年まで勤務しないことが多いようだ。

Yasuyuki Nagai
Advogado japonês em NAGOYA